児発管が行うアセスメント業務を徹底解説
児童発達支援管理責任者(児発管)の業務として非常に重要な「アセスメント」。
今回は、児発管の方向けに、アセスメントの具体的な流れや内容を解説していきます。
児発管の経験を踏まえたポイントや「失敗しないためのコツ」、具体的な事例も紹介していきますので、ぜひ最後までお読みください。
放課後等デイサービス・児童発達支援のアセスメントとは?
定義
アセスメントとは英語の「assessment」です。元々は、課税・評価額・査定といった意味で、主に評価に関連する単語です。
放課後等デイサービス・児童発達支援の中では、対象児と環境の情報を収集し、分析することをアセスメントと呼びます。
対象児の発達段階を考え、何を得意で何を苦手としているのか、保護者様のお困りごとは何なのか、学校や園の生活でどのようなことに困っているのかなどを総合的に分析します。
単なる情報収集だけに留まらず、得られた情報から対象児や保護者様の状況や問題を評価し、目標設定につなげることが重要です。
アセスメントは個別支援計画作成業務の一部
アセスメントを含めた個別支援計画作成の流れ
個別支援計画作成の大まかな流れは以下のようになっています。(参照:岐阜県資料)
- アセスメント←本記事で解説
- 個別支援計画の原案
- 支援会議
- 個別支援計画
- 個別支援計画の実施・モニタリング
個別支援計画作成については、下記で詳細に解説しています。
アセスメントは個別支援計画の原案を策定する際に実施する
個別支援計画を作成する際に、対象児の心身や生活の状況把握と分析のため、必ずアセスメントを実施しなければなりません。
<参照>・児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準(◆平成24年02月03日厚生労働省令第15号)
子どものニーズを明確化していくことがまず求められます。
また、発達段階にある子どものニーズは変化しやすいため、日頃から状況を適切に把握し対応していく必要があります。
アセスメントの実施は児童発達管理責任者が行う
アセスメントを実施するのは基本的に児童発達支援管理責任者です。
「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」において、
アセスメントを含む個別支援計画の作成は児童発達支援管理責任者の業務と定められています。
<参照>・児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準(◆平成24年02月03日厚生労働省令第15号)
アセスメントの記録を必ず残す
保護者等との面談日や面談内容などの記録は必ず残しておきます。
実地指導の際には、アセスメントを行った日にちと時間、誰と誰が面談をしたのかなどの記録ができているかのチェックが行われます。
アセスメントの意義と重要性
アセスメントがしっかりできていなければ、対象児に合った個別支援計画の作成が難しくなります。
個別支援計画に則したサービス提供は放課後等デイサービスガイドライン基本姿勢として定められています。
<参照>放課後等デイサービスガイドライン
また児童発達支援の方法として、子どもと保護者のニーズや課題を客観的に分析し子どもが信頼感や安心感を持って活動できるよう思いや願いを受け止めることが定められています。
子ども一人一人の生活の実態についてアセスメントすることの重要性が理解できます。
<参照>児童発達支援ガイドライン
児発管が行うアセスメントの項目
アセスメントの項目例には様々あり、すべて記載することはできませんが、
岐阜県の資料「児童期のアセスメントと個別の支援計画」によると、以下のような項目があります。
運動・感覚の項目例
• バランスの問題 ・姿勢保持 ・集中力の有無
• 遊具の使用
• 歩く、走る、跳ぶ、くぐる、跨ぐ、階段などの体の動き
• 線加速度、回転、揺れに対する反応
• ボディイメージ
• 聴覚、触覚、味覚などの過敏性または鈍さ、防衛反応の有無
• 目と手の運動 ・協調動作 ・利き手 ・不器用さ
• 好きな運動遊び
認知・行動の項目例
• 刺激に対しての反応
• 色、形、大きさなど抽象概念の形成
• 視覚情報と聴覚情報処理の得意・不得意
• 状況の変化への対応
• 物の属性理解 ・数の理解
• 空間や位置関係の理解
• 興味の限局の有無
• 新しいことに対する反応 ・自己肯定感の有無
言語・コミュニケーションの項目例
• 話したい気持ちの有無
• 手差し・指差しの有無 ・音声やサインによる意思表示の有無
• 言葉の有無(一語文、二語文、三語文、文章表現)
• 聞かれたことに応える(名、住所、親の名、電話など)
• 言葉でのやりとりの有無 ・一方的会話の有無
• 文字理解 ・文字を書く ・本を読む
• 読字困難の有無 ・書字困難の有無 ・場面緘黙 ・吃音
• 時系列の表現 ・困ったときの訴えの有無
児発管によるアセスメントの手順
大まかな流れは以下のようになっています。
ステップ① 情報の収集
基本情報に加え、専門機関への相談経験、発達検査の結果などの状況、保護者様が心配されていることの情報の収集をします。
保護者様が、K式などの発達検査の結果をお持ちになることもあるので、発達検査についてある程度の知識を身に着けておくとお話が進めやすくなるでしょう。
正式な検査資料でなくても、普段のノートやテスト等も、対象児を理解するための資料になります。
ステップ② 情報の分析
得た情報を分析して、ニーズやお困り感の解決に向けて、療育施設としてできることを整理します。
本人と保護者様の障害の受容感や特性の理解も含め、それぞれのニーズに合った支援を考えましょう。
保護者様が施設にどのような支援を求めているのかも、実際にサービスを提供していく中で重要になります。
勤務先の施設と保護者様のニーズがマッチしないとなればリファーする(クライアントを他の事業所や医療機関などに繋ぐこと)も大切です。
日頃から相談支援事業所や地域のクリニックなどとの関係構築や情報収集をしておきましょう。
ステップ③ 総合評価
分析したことを踏まえ、現在の状況を評価します
現在の状況を基にして具体的な支援目標を検討し、個別支援計画の原案の策定に移行しましょう。
アセスメントの具体的な事例
お子様が自分のニーズを言語化するのは難しいので、一般的には保護者様から情報を聞き取ります。この際に、保護者様が本人の困り感に気が付いていない場合があります。
例えば、対象児本人は言葉の意味が分からなくても、お話しできているように見えている場合、、、
「楽しいね」『楽しいね』、「お名前は」『〇〇です』。
一見しっかり呼応できているのですが、言葉の意味は分かっていません。オウム返しだったりパターンを覚えているのです。
学校や園などの基礎集団の中では、指示を理解できず、何をしていいのかわからず困っていることが理解されず、「早くしなさい」「ふざけない」と怒られてしまいます。
対象児はなぜ怒られたのかも理解できずに、怒られる経験だけが積み重なってしまいます。
「集団での指示が聞けるようになってほしい」というニーズを実現するには、まず認識の齟齬に気が付くことが重要になるという事例です。
アセスメントの注意事項やポイント
アセスメントの目的は、基本情報からは分からない情報を把握することです。
対象児のことだけでなく、障害の特性、お友達との関係、母集団での困り感、おうちでの過ごし方など、必要な情報を聞き取ります。
とはいえ、どんなに長く児童発達管理責任者の仕事に従事していても、どんな資格を取得していても、
初対面の対象児や保護者様が、心を開いてお話をしてくださるのは難しいことです。
わきまえた上で、お子様や保護者様から信頼していただけるアセスメントを心掛けましょう。
ポイント① シートの内容にこだわりすぎない
どの施設にもアセスメントシートがあると思いますが、あまり型にはまらないほうが良いアセスメントになるでしょう。
実際にアセスメントを取ると、シートには納まらなくなるはずで、あるべき姿です。
一人一人異なる対象児や保護者様のニーズを聞き取ることがアセスメントです。聞き取りたいところをしっかり聞き取りましょう。
例えば、「バイバイをするときに手の向きが逆なんですよね」と言うお話が出たとします。
手首が固いことを考え食事はどのようして食べているのか、書字ができるかを聞き取ることになるかもしれません
ASDの特徴の1つと考え、他にASDの特徴はないか、保護者様の障害に関しての知識や受容は進んでいるかなど、シートにはないお話の展開となるのが自然で重要です。
「対象児個人を知るためのシート」という前提を大切にしましょう。
ポイント② 「分かります」と同意しすぎない
つい「あ、あの児と同じだな」と「分かります」「そうですよね」と同意したくなります。
しかし初対面での安易な同意は、「何も分かろうとしてくれない」と腹立たしさや哀しさを感じる場合もあるようです。
「このような場面ではどうですか?」など、相手の言葉や想いを引き出すように言葉を選ぶことを意識します。
アセスメントでは「理解しようとしてくれている」というラポールの形成(信頼関係を築いて良好な人間関係を構築すること)を目指しましょう。
ポイント③ 対象児を中心に支援を考える
児童発達支援・放課後デイサービスは保護者様が契約者になるので、保護者様に向けてお話しをすることが多くなります。
しかし、サービスを受けるのは対象児です。当然のことながら、本人をないがしろにしてはいけません。
私は必ず保護者様より先に対象児に挨拶をしています。
自分の意思が表現できる児には「何がしたい?」「何ができるようになりたい?」と聞くようにしています。
本人中心の支援という前提を忘れないようにしましょう。
まとめ
今回はアセスメント業務について、具体的な事例も交えながら詳細に解説しました。
抑えておくべきポイントはある程度存在しているものの、児童さんや保護者さんによってどう対応していくべきかはケースバイケースで変わってきます。
療育関係の研修に参加して知識や事例のアップデート等も必要になってくるでしょう。
大変な業務だとは思いますが、よりよいサービスを提供していくためには必要かつ重要な業務ですので、ぜひポイントを踏まえて進めていただければと思います。
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