児童発達支援管理責任者(児発管)の仕事の中でも重要なスタッフ指導。
今回は、児発管として勤務した経験のある筆者が、実際にスタッフ指導をしていて大変だったエピソードと具体的に工夫したことについて書いていきます。
現在児発管として勤務をしていて「大変だな」「きついな」と感じている方にとって何かしらヒントになれば幸いです。
児発管のスタッフ指導の意義①【意思統一】
スタッフの意思統一の重要性
児発管の大事な仕事の一つは、現場の方向性や意思を統一させることです。
児童は、先生によって言われることが違うと混乱するので、安心して過ごせる場所を作るために先生達の意思統一はとても大切です。
そのためには、何を大切にする教室なのか児発管自身が明確なビジョンを持ったうえで、スタッフ全体に理解してもらう必要があります。
教室の意思統一のために大切なこと
教室の意思統一や先生達の教育を図る際に大切なことは、児発管と現場の精神的な壁をなくすことです。
仕事内容が違う部分は多いのですが、仕事の目的は同じ「子どもの療育」です。
児発管は上司だから上・偉い、という考え方は壁を強固にします。
同じチームで役割が違うだけ、そして大変な役割だから少し給料を多くもらっているだけです。
逆に、先生達が“児発管は仲間ではなく上司”と見ている可能性があることも忘れてはいけません。
私は現場の先生達に自分が忘れっぽいことを伝えてリマインドをお願いしたり、ちょっとした時間の雑談にも参加したりしていました。
先生達に仲間の一人だと思ってもらうためには、自分の弱みを隠さず、コミュニケーションを大切にすることをおすすめします。
その双方の感覚を忘れなければ、先生達も児発管を信頼して伸び伸びと働いてくれるし、みんなで取り組んでいるという一体感が感じられ現場が明るくなるでしょう。
体験記① 意思統一に関して児発管として工夫した事と悩み
意思統一のために児発管として実践したこと
わたしの場合は会社が「子どもにとってよい環境を作る」ことを最優先にする方針でした。
この方針が私の考えと一致していたため、“そのためには”と具体的にすべきことを考えられました。
しかし、スタッフ一人一人にその方針に沿った行動ができる力をつけてもらうことは、大変で地道な作業です。
具体的に行ったこと
- ミーティングや会議の際、ことあるごとに「この教室は○○を大切にしていきたい」と伝え続ける
- 現場に行って日常のスタッフの様子を観察する(圧を与えないように児童の様子を見るついでに観察)
- 定期的にスタッフと個人面談をして「悩んでいることはないか」「こういう傾向が見られるからこうしてはどうか」など各々と話し合ったりアドバイスしたりする
- スタッフさんの行動の過程や結果も見て褒め、更に強化したりしていき一緒に成長する
丁寧に向き合い続ける
これはPDCAサイクルに近いものがあります。
ただし、児発管からの要求・強制という形にならないよう、一人一人のスタッフの思いを汲み取りながら一緒に行うことが重要です。
この方法により、スタッフ自身が成長したいと思い始め、療育への意欲や教室の一体感が形成されていきました。
また、スタッフがイレギュラーな状況でとる咄嗟の行動に、その教育の成果が見えてきます。
スタッフの中で飲み込みが早く勘が良い先生がいれば、次第に現場リーダーのような立場になっていき、
児発管でなくてもその先生がみんなのサポートをする役割を果たすようになってくれます。
このような現場主体になる仕組みが作れるまで児発管は一人一人のスタッフと丁寧に向き合うことが大切です。
児発管として悩んだ体験【和を乱すスタッフ】
しかし中には、そもそも話が伝わらなかったり、自己欲求を最優先にしたりする先生もいますよね。
その先生は現場で和を乱す言動が度々見られ、意思共有できている他の先生達から浮いてしまいます。
その際の児発管としての責任は、
・それぞれの先生に等しく教育と努力する機会を与えること
・努力や意思共有ができず和を乱す先生から他の先生達を守ることです。
わたしは初め、その和を乱す先生の教育をどうすればいいのか悩んでいました。
他の先生達から現場で発生している悪影響を相談され、何度もその先生と面談をしていたこともありました。
上司からのアドバイス
しかし、反省や努力・改善は見られなかったです。
上司に相談したところ以下のようなアドバイスをもらいました。
「児発管から最大限の働きかけはしているのだから後は本人の問題。自分の居場所は自分で作るもの」
「その先生自身の課題を児発管が抱え込んでは、他の先生へのケアが疎かになるから、頑張っている先生たちを見てあげて」
そのとき、霧が晴れたような感覚があったのを覚えています。
その後、相談してきた先生達には「具体的な悪影響は児発管が食い止めるからすぐ教えてほしい、そして自分の仕事に専念してほしい」ことを伝え、
和を乱す先生に特別な教育をすることもやめました。
するとやはり、居場所をなくしたその先生はほどなくして退職されたのです。(※ここで伝えたいことは「言う事を聞かない先生を切り捨てるということではありません。詳細は後述)
私はそのときから、どの先生が良い悪いではなく会社の方針に合う合わないの問題だと考えるようになり、教室の在り方を守るコツのようなものを身に着けました。
補足
これは“言うことをきかない先生は切り捨てる”ということではありません。
“十分な働きかけをした結果、本人の選択で教室の方針を受け入れないのであればそれは仕方がない”ということです。
児発管も人間ですから、わかってもらえないとイライラもしますが、そこは感情ではなく事実をもとに冷静に分析・判断しなければいけません。
児発管のスタッフ指導の意義②【指導力の底上げ】
療育と子育ては別モノ
療育は、一般的な集団保育や教育とは別物です。そこの違いを先生達に理解して実行してもらうことが難しいときがあります。
特に保育園や学校での勤務経験がある方、自身での子育て経験がある方は既に身についた経験や知識があるため、かえってそれが妨げになることもあるでしょう。
発達障害がある児童には症状や障害に名前がついていますが、同じ名前でも児童一人一人で発現の仕方も症状の重さも違います。
つまり抱えている課題やそれに対する支援が同じということはあり得ないということです。
その点を言葉で説明すると、大体の人は「それはそうだ」という反応になります。
しかし本当の意味で理解し、実際の療育で実行することはそう簡単ではありません。
そのため、児発管として、現場のスタッフさんの指導力を上げる事が重要になってきます。
体験記② 指導力アップに関して児発管として工夫した事と悩み
児発管として悩んだ体験【説明の難しさ】
わたしは先生達に支援のやり方を指導する際、何を説明すれば良いのか悩みました。
子どもの行動は予測がつかないし、日々成長や変化があるので「この子にはこうする」と決まったことは言えず、目の前の子どもを見て判断しなければいけません。
そうなるとやはり、先生達にその判断ができる力をつけてもらう他ないのです。
そこで先生達に「子どもをよく見る」「何に困っているか考える」「それに対する支援を考える」ように伝えたところ、
どのプロセスでも見当違いだったり抜けていたりして、伝わっていないことがたくさんあると分かりました。
人には先入観や思い込み、自分の都合による解釈があり、事実のみを見て論理的に考える力がそれぞれ違います。
具体的に体験から学んだこと① 先入観を捨てる
より詳細に具体的に伝達
私が先生達を指導するうえで学んだことの1つ目は
「自分が分かることは相手にも分かるだろうという考え方は捨てること」でした。
もちろん、相手には分かっていて自分には分からないこともあります。
人それぞれ経験や知識が違い、見えるものが違い、価値観も考え方も違うことを身をもって感じました。
そして私は、より具体的で解釈にほとんど差がでないような指示の出し方を意識して試しました。
たとえば、以下のように指示の出し方をより詳細かつ具体的に変えてみました。
「子どもをよく見る」→「子どもが○○をするときにどう反応するか見て、記録してみよう」
「何に困っているか考える」→「何がその行動を引き起こしたと思う?原因をいくつか想像してみよう」
「それに対する支援を考える」→「その原因を解決しないといけないね。教室でできることあるかな?」
他の先生からの協力
上記のような工夫でかなり伝わりやすくなりましたが、これを児発管が全員に毎回行うのは時間がかかりすぎます。
そんな悩みを抱えていたところ、ある先生が効率化のため簡易シートにして先生同士で相談し合えるようにしてくれました。
また、児童が同時にたくさんの課題に取り組むことは負担が大きすぎるし、慣れるまで先生達も大変なのでシートに書き込む課題は2〜3個までと決めました。
しばらくすると先生達は考え方に慣れてきて、シートに書き込むこと以外の課題にも気付けるようになり、その場で適切な支援ができる力がついていったのです。
「子どもをよく見る」とは何か?「支援を考える」とは何か?がどの先生にもある程度理解できたのではないかと思います。
わたしは現場の不必要な書類を極力廃止していたので、支援に直結するこのシートには先生達も積極的に取り組んでくれ、自分たちで徐々にシートを改善してより支援に有効活用できるよう作り変えてくれるまでになりました。
具体的に体験から学んだこと② スモールステップ
私が経験から学んだことの2つ目は
先生達にもスモールステップが必要ということです。
「大人なんだからわかるでしょう」
「指導員ならできて当たり前」
「普通に考えたらこうでしょう」
という児発管の勝手な思い込みを押し付けていても、事態は一向に改善しません。
療育とは何なのかを知って実行するまでのプロセスで、その先生がどこで何につまずいているのかを見極め、導くことが児発管の仕事だと思います。
そのためにはやはり、前述したように先生達とのコミュニケーションが大切です。
面談をしたり現場で様子を見たりして、先生の情報をキャッチしなければ必要な指導ができません。
スタッフさんの力量を把握する方法例
ちなみに、わたしは、現場で先生の目線を見ることで先生の力量をチェックしていました。
この先生は子どもたちの行動をどれくらい見ているのか、子どもの動きがどうなったときにどんな言葉がけをするのかなどを観察すると、支援に対するその先生の考え方が見えてきます。
そのとき、もしアドバイスしたいことが見つかったなら、具体的に「○○ちゃんがこうしたときのことなんだけど」とできるだけその日のうちに話します。
先生達は忙しい中で無意識に行動していることが多く、後日話されても具体的に覚えていないのでせっかくの成長のチャンスを無駄にしてしまいます。
「鉄は熱いうちに打て」です。(児童の前や他の先生の前で注意することはしない。どの先生にも当てはまることならミーティングなどで全体に向けて話すのはOK)
補足・まとめ
指導の際には「あなたを否定しているのではなく、療育をより良くするために一緒に考えたいのだ」というこちらの真意が伝わるように意識していました。
指導に大前提として必要なことは、相手への敬意と誠意だと思います。
一部の例外を除き、基本的には「子どもの力になりたい」という思いを持って働いています。
相手の行動や考えを尊重したうえで、アドバイスや指導をしていくことが大切です。
最後に
今回は、児童発達支援管理責任者の業務の1つ「スタッフ指導」について実体験を交えながらお伝えしていきました。
あくまでも個人的な考えであることや私が所属していた事業所での話であることはご承知おき下さい。
とはいえ、お悩みをお持ちの方も多いと思いますので、もし何かご相談したいことがある方は、ぜひ当記事のコメントからメッセージ頂ければと思います。
できる限りお答えしていきます!
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