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「生きる力」とは?学校教育は何が変わるの?学習指導要領をもとに解説

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生きる力 学びの、その先へ

2020年度より小学校から順次実施されている、新学習指導要領のキーワードです。

今回の改訂によって「学校で学んだことが、明日、そして将来につながるように、子供の学びが進化」するとありますが、実際の学校教育はどのように変化しているのでしょうか。

今注目される「生きる力」とは一体どのようなものなのでしょうか。

この記事では、「生きる力」とは何かなぜ今それが求められているのかそして子どもたちの学びや学校生活がどう変化しつつあるのかを、

文部科学省が制定した「学習指導要領(平成 29 年告示)」とその解説をもとに順番に解説していきます。新しい時代の教育における核心を一緒に探求していきましょう。

目次

「生きる力」とは

文部科学省は「生きる力」を「知・徳・体のバランスのとれた力のこと」と表しています。変化の激しいこれからの時代を生き抜くためには、確かな学力豊かな人間性健やかな体、これら知・徳・体をバランスよく育てる必要があるのです。

また、平成8年7月の中央教育審議会では「生きる力」について、

「基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力。自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性。たくましく生きるための健康や体力。」

であると指摘しています。

それでは、これらをふまえて「確かな学力、豊かな人間性、健康・体力」がどのような能力なのか、具体的にみていきましょう。

「生きる力」の3つの要素

「知」確かな学力

基礎的な知識・技能を習得し、それらを活用して、自ら考え、判断し、表現することにより、さまざまな問題に積極的に対応し、解決する力のこと。

  • 生涯に渡り学習する基盤となる、基礎的な知識と技能
  • 知識や技能を活用し、課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力
  • 主体的に学習に取り組む態度
  • 個性を生かし多様な人々と協働する力

変化が激しく未来の予測が困難な時代にも通用する、「確かな学力」を身につけるためには基本的な知識や技能のみでなく、これらを活用して実生活の中で生かしていく力が求められます。

また、自分のよさや可能性を認識して個性を生かしつつ、多様な他者を価値のある存在として尊重し、協働して様々な課題を解決していくことが重要となっています。

「徳」豊かな人間性

自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性のこと。

  • 他人を思いやる心など、他者との共生や異なるものへの寛容さをもつ感性
  • 生命や人権を尊重する心
  • 自然や美しいものに感動する心
  • 正義感や公正さを重んじる心
  • 感性を豊かに働かせながら、思いや考えを基に構想し、新しい意味や価値を創造していく創造性

「体」健康・体力(健やかな体)

たくましく生きるための健康や体力のこと。

  • 運動を通じて養われる、十分な体力
  • 食育を通じて身につける、望ましい食習慣
  • 健康に関する知識を身に付け、情報を収集し、適切な意思決定や行動選択を行う力
  • 身の回りの生活の安全交通安全防災に関する知識を身につけ、安全のための行動をとる力

体力は、人間の活動の源であり、健康の維持のほか意欲や気力といった精神面の充実に大きく関わっているため、「生きる力」を支える重要な要素です。

健康・安全で活力ある生活を営むために必要な資質や能力を育て、心身の調和的な発達を図ることで、健康で安全な生活と豊かなスポーツライフの実現を目指しています。

まとめ
「生きる力」とは、変化の激しいこれからの時代を生き抜くために必要な要素である確かな学力豊かな人間性健やかな体のこと。これらをバランスよく育てていくことが大切である。

どうして「生きる力」が注目されているの?

それでは、どうして今「生きる力」が注目され学習指導要領が改訂されたのでしょうか。

それは、変化の激しい予測困難なこれからを生きる子どもたちは、「一人一人が持続可能な社会の担い手として、その多様性を原動力とし、質的な豊かさを伴った個人と社会の成長につながる新たな価値を生み出していくことが期待される」存在であるためです。

学力の現状

OECD生徒の学習到達度調査によると、平成12年に実施された調査と比較すると、平成18年に実施された調査では学力の上位・中位層が減少し、下位層が増加しています。

また、同調査によると、記述式の問題や読解力の問題において参加国の中での順位が下落しており、知識や技能を実生活の中で活用する力や読解力に課題があることがわかります。

また、IEA国際数学・理科教育動向調査の結果からは、小学生と比べると、中学生の数学・理科に関する興味・関心が世界的に見ても低い水準にあることが読み取れます。

「知識基盤社会」の到来

ところで、「知識基盤社会」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

この言葉は2005年の中央教育審議会答申によって記された言葉です。世紀末から21世紀にかけて、世界的に、社会や経済が大きく変化してきました。この変化が、産業社会・工業社会から知識社会・知識基盤社会への転換と言われています。

これまで、人間は機械を用いて資源を加工して物を生産し、それにより経済的な利益を獲得してきましたが、「知識基盤社会」の今、人間は物に代わり知識を創造しこれを活用して利益を得ようとしています。

中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」(平成17年)では「知識基盤社会」の特徴について以下のように述べています。

  • 知識に国境がなく、グローバル化が一層進む
  • 知識は日進月歩であり、競争と技術革新が絶え間なく生まれる
  • 知識の進展は旧来のパラダイムの転換を伴うことが多く、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく判断が一層重要になる
  • 性別や年齢を問わず参画することが促進をされる

このような社会で変化に対応しながら生き抜いていくためには、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく新しい知や価値を創造する能力が求められるようになります。また、異なる文化との共存や国際協力の必要性も増大しています。

まとめ

競争と技術革新が絶え間なく起こる「知識基盤社会」では、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく新しい知や価値を創造する能力が求められる。

そのために、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくことなど、「生きる力」を育む教育が重要となっている。

学校教育はどう変わる?

ここからは、「生きる力」を育むために、学校教育がどのように変化しつつあるのか説明していきます。この解説は「平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説)」をもとに行います。

学習指導要領とは

全国どこの学校でも一定の水準が保てるよう、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準。およそ10年に1度、改訂しています。平成20・21年の改定では 外国語活動が小学校5・6年で導入され、平成27年の改定では道徳が「特別の教科」とされるなどしました。

今回の改訂のポイント

「何を学ぶか」だけでなく、「どのように学ぶか」「何ができるようになるのか」を重視します。

「生きる力」を育むため、「何のために学ぶのか」という学習の意義を子どもたちと共有しながら、授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していけるよう、全ての教科の学習が①知識及び技能②思考力、判断力、表現力等③学びに向かう力、人間性等三つの柱で再整理されました。

これにより「主体的・対話的で深い学び」を実現し、知識の理解の質を高めていくねらいがあります。

①知識及び技能(何を理解しているか、何ができるか)②思考力、判断力、表現力等(理解していることや、できることをどう使うか)③学びに向かう力、人間性等(どのように社会・世界と関わり、より良い人生を送るか)これらの三つの力が相互に関連し合うことで、「生きる力」が育まれます。

また、教育内容に関する主な改善のポイントとして、「平成29・30・31年改訂学習指導要領(解説)」には以下のような項目が書かれています。

  • 言語能力の確実な育成
  • 理数教育の充実
  • 伝統や文化に関する教育の充実
  • 道徳教育の充実
  • 体験活動の充実
  • 外国語教育の充実
  • 主権者教育、消費者教育、防災・安全教育などの充実
  • 情報活用能力(プログラミング教育を含む)
  • 子供たちの発達の支援(障害に応じた指導、日本語の能力等に応じた指導、不登校等)

これらの項目に関して、小学校・中学校・高校の授業が具体的にどのように変化したのか、以下で解説していきます。

小学校

2020年(令和2年)から全面実施。

授業時間に関して、国語・社会・算数・理科・体育の標準授業時数が6年間で約1割増加します。

また、週当たりの標準授業時数が1・2年生で週2時間、3~6年生で週1時間増加します。

  • 国語をはじめ各教科等で、知識・技能を活用したレポートの作成や論述など、言語の力を高める学習を実施
  • 理数科目で国際的に通用する、新しい科学的知見を取り入れたカリキュラムを実施
    • 素数(5年生・算数)     
    • ひし形・台形の面積の求め方(5年生・算数)
    • 縮図と拡大図(6年生・算数)
    • 身近な自然の観察(3年生・理科)
    • 人の体のつくりと働き(4年生・理科)
    • 電気の利用(6年生・理科) などを新たに学習する。
  • 算数では、基礎的な知識・技能を確実に身に付けるため復習学び直しの機会を設ける
  • 学習の中に作業的活動体験的活動観察や実験の機会を充実
  • 小学校5・6年生で「外国語活動」を導入
    • コミュニケーション能力の基礎を育むことを目的とした活動
  • 伝統や文化に関する教育を充実
    • 親しみやすい古文や漢文の音読(5・6年生・国語)
    • 世界文化遺産や国宝などの文化遺産を取り上げる歴史学習(6年生・社会)
    • 教材として扱う唱歌(「春が来た」「もみじ」「ふるさと」など)の曲数を増加(音楽)
  • 道徳教育を充実
  • 健やかな体を育てる教育を促進
    • 体つくり運動を低学年から実施
    • 心身の健康の保持増進のため、健康・安全に関する学習を充実
  • 社会の進展に対応した教育を実施
    • 節水や節電などの資源の有効利用(3・4年生・社会)
    • 物や金銭の大切さ・計画的な使い方、買物に関する学習(適切な購入など)(家庭)
    • 情報化した社会の様子や自然災害防止の取組の学習(5年生・社会)

中学校

2021年(令和3年)4月1日から全面実施。

授業時間に関して、国語・社会・数学・理科・保健体育・外国語の授業時数が、3年間で約1割増加します。

また、週当たりの授業時数が各学年で週1時間増加します。

  • 小学校と同じく、知識・技能を活用してレポートの作成や論述、発表、意見交換など、言語の力を高める学習を実施
  • 理数科目で国際的に通用する、新しい科学的知見を取り入れたカリキュラムを実施
    • 球の表面積・体積(1年生・数学)
    • 二次方程式の解の公式(3年生・数学)
    • 標本調査(3年生・数学)
    • 日本の気象(2年生・理科)
    • 水溶液とイオン(3年生・理科)
    • 遺伝の規則性と遺伝子(3年生・理科)  などを新たに学習する。
  • 外国語教育で「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4技能をバランスよく育成
    • 授業時数が週3時間から、週4時間に増加
    • 学習する語数が900語から1200語に増加
  • 伝統や文化に関する教育を充実
    • 歴史的背景などに注意して古典を読む(3年生・国語)
    • 身近な地域の歴史や各時代の文化の学習(社会・歴史的分野)
    • 民謡・長唄や和楽器(箏、三味線、尺八など)に関する学習(音楽)
    • 男女共に武道を必修化(1・2年生・保健体育)
  • 道徳教育を充実
    • 自他の生命の尊重、法やきまりの意義の理解、社会の形成への主体的な参画を学習
  • 健やかな体を育てる教育を促進
    • 球技や武道・ダンスなど様々な経験をする
    • 体つくり運動やスポーツの科学的知識などに関する学習
  • 社会の進展に対応した教育を実施
    • 持続可能な社会の構築のため、地域における環境保全の取組の大切さを学習(社会・地理的分野)
    • 地球温暖化、外来種に関する学習(理科)
    • 消費者の保護(消費者の自立支援等の消費者行政など)、租税の意義と役割の学習(社会・公民的分野)
    • 消費者の基本的な権利と責任(消費者基本法など)、契約の重要性に関する学習(社会・公民的分野)
    • 個別学習の並列的な記憶よりも一連のできごと全体の確かな理解を重視した、各時代の特色や時代の転換の学習(社会・歴史的分野)
    • ディジタル作品の設計・製作、プログラムによる計測・制御に関する学習を必修化(技術家庭・技術分野)

高等学校

2022年度(令和4年度)の入学生から年次進行で実施。

高校の学習指導要領については、すべての高校生が共通に学ぶ教育内容は必要最小限の内容を定めるにとどめ、高校生の多様な興味・関心や進路などに応じることができるような仕組みになっているそうです。

  • 言語の力を育成
    • 国語をはじめ各教科等で批評、論述、討論などの学習を充実
  • 理数の力を育成
    • 新しい科学的知見に対応する観点を指導内容に含める(遺伝情報とタンパク質の合成、膨張する宇宙像など)
  • 外国語教育を充実
    • 標準的な単語数が1,300語から1,800語に増加
    • 英語による言語活動を授業の中心とし、授業は英語で行うことを基本とする
  • 伝統や文化に関する教育を充実
    • 古典、武道、伝統音楽、美術文化、衣食住の歴史や文化に関する学習など

まとめ
「生きる力」を育むため、学校教育ではこれまで以上に、知識及び技能思考力・判断力・表現力等学びに向かう力・人間性等の3つの柱を軸に主体的・対話的で深い学びを重視しています。基礎的・基本的な知識・技能の習得に加え、それを活用する思考力・判断力・表現力等を育成する活動が行われています。

まとめ

「生きる力」とは、変化の激しいこれからの時代を生き抜くために必要な要素、確かな学力豊かな人間性健やかな体のバランスの取れた力のことです。

21世紀は競争と技術革新が絶え間なく起こり、未来を予想することが困難な「知識基盤社会」であり、幅広い知識と柔軟な思考力に基づく新しい知や価値を創造する能力が求められます。

そのために、他者と協働して課題を解決していくことや、様々な情報を見極め、知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくことなど、「生きる力」を育む教育が重要となっているのです。

学校教育では、「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の3つの柱を中心として、主体的・対話的で深い学びを実践していくことが重要になっていきます。

また、言語能力や外国語能力、国際的に通用する理数能力など、国境を超えて新たな時代を生き抜くために必要な力を伸ばす教育も、これまで以上に実施されていくことでしょう。

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