最先端の教育を実践する学校や企業を取材するインタビュー企画。
今回は日本初のSTEAM教育スクール「ステモン」を運営する株式会社ヴィリングさん!
STEAMとは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、アート(Art)、数学(Mathematics)の5つの英単語の頭文字です。参考:文部科学省(STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進)
今回は、不動産ベンチャーから医療系ベンチャーを経て、株式会社ヴィリングを設立した代表の中村さんと、中村さんとは医療系ベンチャーで同僚でもあった株式会社クロス・シップの代表の野﨑との対談です。
後半(本記事)では公教育でのプログラミング教育の難しさや、子供たちの個性に合った学習の機会を提供したいという想い、また、ステモンではどんな人が活躍しているのかなどを伺います。
プロフィール
- 株式会社ヴィリング Founder and CEO
- 小学校教員免許保持
- LEGO® SERIOUS PLAY® facilitator
公教育におけるプログラミング教育の難しさとやりがい
公立の学校で、プログラミングカリキュラムの実践にチャレンジ
野﨑:ステモンは、徳島などいくつか公教育の場でも実践されていましたよね?
今後、公教育にも広げていこうとされているのでしょうか?
中村:はい、やってます。最初は2015年に多摩市の小学校で。その後、小金井市の小学校でもやりました。
最初は理科の教員として入り、理科の授業の中にプログラミングを入れられないかというトライをしたんですけど、これはできなかった。
メダカの誕生とか、台風の仕組みとか。電磁石、コイルを巻いてとか。「いや、これもう時間的にプログラミング入れるところないわー」みたいな。これは現場の先生困るよなーって思いました。
野﨑:なるほどね。現場の先生方のお困りの様子がリアルに伝わってきます。。
中村:でもこの経験があったから、今は学校でプログラミングコンテンツを取り入れる際の難しさや勘所がよくわかります。
分かっているからこそ学校の先生たちと話をしても、安心して耳を傾けてくれたりしますね。
野﨑:2020年から必修化されたプログラミングの授業、現在の一般的な小学校ではどのような授業をやられているんでしょうか?
中村:今は、既存の教科の中にプログラミングの要素を入れましょう、という曖昧な状況なんですよね。
だからこそ、実際はプログラミングを入れられていない小学校が、おそらく9割ぐらいなんじゃないでしょうか。
野﨑:え、そうなんですか!でも次の大学共通第1次学力試験では、情報の試験が入りますよね。
中村:そうそう。中学校は技術家庭科の中に情報の授業が入るので、 そこでちょっと扱います。
高校は情報が必修になってますね。
野﨑:私が聞いた話なんですけど、ある高校で、フローチャートの書き方を先に座学で教えて、それをテストに出して点数をつける、とかをやっていて。
そのやり方だと生徒たちにとってそもそもとっつきづらいし、テストもわからなくて、結果「情報」を嫌いになってしまう生徒も出たりしている、という話も聞きますね。本末転倒というか。
中村:いきなりフローチャートから入ったらつまんないですよね。
「何かを創作したい」という思いを実現するための手段としてプログラミングがあったら、楽しくなるんですけどね。
その高校も、当社がオンラインで授業とかできたら嬉しいんですけど。
ヴィリングが育みたいもの
野﨑:当社では認知能力と非認知能力のバランスよい学びが重要、ということを根本的な考えとして持っています。
ヴィリングや中村さんが育みたいものって何になりますでしょうか?
中村:ひとつは、子供の発達段階に合った学びを提供するということ。
当然ですが、子供一人ひとり、発達段階は違います。同じ計算でも運動でも、早くできる子もいれば時間をかけてできるようになる子もいます。それに合わせて環境を提供してあげることですね。
「もう漢字を覚えた」とか「もう掛け算ができた」とか、それはそれで素晴らしいかもしれませんが、危うさも併せ持っています。
周りのスピードよりも習得が遅いだけなのに、それが原因で「これは苦手・嫌い・得意ではない・自分にはできない」という風に思い込んでしまう。それを見て更に親御さんも焦ってしまう。これってすごくもったいないですよね。
僕はここに対する問題意識が特に強いと思います。
親御さんと一緒に、より良い知識をもって、子供一人ひとりに合った学びや環境提供をしていきたいです。
我々大人が間違った知識を持ったり、早期教育が良いと無条件に思い込んでしまったりすると、子供の未来や学ぶ楽しさそのものを奪ってしまうかもしれない。
そのことを強く認識して、親御さんと一緒に子供に伴走していきたいですね。
もうひとつは子供の特徴に合った学びを提供するということ。
これも当然ですが、子供によってそれぞれ特徴があります。
同じことを覚えるにしても、読む方が覚えやすい子と、見た方が覚えやすい子がいたり。
身体的な体験をしながらでないと覚えにくい子もいます。これって、その子の脳の特徴なんですよね。
親御さん自身はドリル学習が合っていたのかもしれないけれど、だからといって子供も必ずしもそうだとは限りません。
良かれと思った親御さんから子供がひたすらドリルをやらされて、それが引き金となって勉強嫌いになったりしてしまう、みたいな子供をたくさん見てきました。
野﨑:なるほど。それは皆が不幸になってしまって、本当にもったいないですね。
中村:そう。なので、子供に合った学び方を選べるような社会にしたいと思っています。
ドリルがダメというわけではないんです。ドリルが好きだし力がつくという子供もいれば、ドリルは苦手だけど手触り感を持って学べば急激に伸びる子供もいる。
ドリルが苦手な子はおそらく、結構な確率でステモンみたいなコンストラクショニズムベースの体験学習が好きだと思います。ドリルなのか、体験型学習なのか、子供に合わせて選べるようにしていきたいですね。
これからの未来を生きる力、とは?
野﨑:生きる力を育みますと、文科省も学習指導要領を変更しましたよね。(参考:文部科学省 新学習指導要領)
その一環として、例えば数学のテストなんかでも、従来型の計算問題に答えを当てはめていく形式の試験だけではなく、文章読解力も試されるような文章問題になってきていたりもしますよね。
こういう流れを考えても、まさに先ほどお話にあったような、「多く速く正確に」計算できる力だけではなく、構造的理解力や教科横断型で学ぶ力等、必要とされる時代になっていくんでしょうね。
そうなるとまさに先ほどのコンストラクショニズムは重要だよね、と言われるような流れにもなるのではないかなと思いました。
中村:そうだと思います。例えば当社の算数カリキュラムでは、読解力にフォーカスしてます。
読み取り算数というものなんですが、それは文章題しかなくて、答えはスケッチブックで絵にします。
野﨑:え、計算式は書かないんですか?
中村:全て絵にするんです。結構難しいですよ。
野﨑:面白いですね。クリエイティビティや、想像する力も鍛えられそうな感じがします。
中村:そう、あとはそもそもきちんと構造を理解できるかどうか。例えば、「左の皿に3つりんごがあります。右の皿にりんごが5つあります。合わせていくつでしょうか?」という問題で、絵を間違う子もいますからね。でも計算式を書かせてみると、「3+5=8」でなぜか合ってるんですよ。だけど絵だと皿に8個、のっていない。面白いですよね。
野﨑:不思議というか、本当に面白いですね。中村さんの言っていた、「その子に合った学びの環境を提供すること」が、これからの未来を生きていく力をつけるために重要なんだな、と改めて感じました。
どんな人に来てほしいか、どんな人と働きたいか?
野﨑:このあと実際にヴィリングの社員さんにもお話を伺う予定なのですが、採用にも力を入れられていますよね?
ヴィリングには、どんな人に来てほしくて、どんな人と働きたいですか?
中村:当社では、 現場で子供たちの前に立って、教育保育する人をエデュテイナーと呼んでいます。
エデュケーション×エンターテイナーでエデュテイナー。 いかにエデュテイナーが躍動できる環境にするのか?ということが、いま会社として力を入れて取り組んでいることです。
知識や研修もそうだし、 それを実践する場も提供していきます。
同時に、エデュテイナーとしての仕事以外の余計な仕事を増やさない。
エデュテイナーには子供たちの前でパフォーマンスすることに集中してもらいます。
我々は教育ベンチャーですが、教育ベンチャーと一言で言っても様々なタイプの会社がありますよね。
Webサービスやアプリを提供している会社もあれば、AI教材を提供している会社もある。
当社はリアルでスクールをかまえて、子供たちが目の前に集まる教育事業をやりたいんです。
ですので、子供たちと対面して、同じ場所でコミュニティを一緒に作っていきたいという思いをもった方々に来てほしいです。
現に、当社へ集まってきてくれているのは、「教育に携わりたい」「でも従来の受験教育とはちょっと違うんだよなあ」「STEAMに興味がある、けどアプリ制作などではなくリアルで子供と関わりたい」というような人たちになっています。
野﨑:エデュテイナーのキャリアラダーみたいなものってどうなっていますか?
キャリアアップを目指すためのキャリア開発のプランです。 キャリア(経歴)とラダー(梯子)を掛け合わせてできた言葉で人事制度や能力開発のシステムを指します。
中村:エデュテイナーは、そのままエデュテイナーのプロになっていく人もいれば、マネジメントへ役割が変化していく人もいます。管理部門に行ってサポート側に回る人も今後出てくると思います。
ただ、マネジメントになろうが管理部門へ行こうが【エデュテイナーが最も躍動できる状態を皆で作る】というのが当社の組織における考え方の軸ですね。
野﨑:なるほど。子供の発達段階や特徴に合わせて伴走するエデュテイナーを全員で支える組織、ということですね。
組織体制にも中村さんの教育に対する思想が強く反映されていて、素敵な組織だなと思います。
編集後記
ヴィリング代表中村さんの、起業に至る熱い想い、事業立ち上げ時の大変だったお話、様々にピボットしながらもサバイバルしていく強い力、事業はピボットしながらも一貫して根底にある教育の哲学など、非常に興味深かったです。
激動の10年間を過ごされてきたからか、逆に対談中は終始和やかな印象で「人としての魅力にも溢れている方だな」と感じました。
「生きる力」をどのように現在の学校や親御さんと連携しながら育んでいくのか、当社クロス・シップとしても非常に大きなインプットとなりました。
次回の対談・インタビュー企画もお楽しみに!
↓ヴィリング社員 北村さんのインタビュー記事はこちら