最近、タブレット端末を使用した「ICT教育」や「プログラミング教育」など、教育現場におけるDX化(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいます。
政府も、GIGAスクール構想の下で教育のDXに力を入れており、ますます注目されるテーマとなっています。
そこで本記事では、教育のDX化における狙いや実践例、課題点などについて詳しく解説していきます。
教育のDX化とは?
この章では、教育のDX化についての基本的な説明を行います。
教育のDX化とは、教育現場において最新のデジタルテクノロジーやツールなどを活用することで、教育手法や手段、教員の校務などに変革をもたらすことを意味します。
教育DXが必要とされる背景には、社会の変化や教育課題に対する解決策としての役割があります。
例えば、施策の一つであるGIGAスクール構想では、学校に必要なICT機器やネットワーク環境を整備することで、児童生徒の学習環境を整備し、地域格差の解消や次世代人材の育成を目指しています。
また、教員の労働負担の軽減や、個別学習の実現、スムーズなコミュニケーションの確立など、様々なメリットがあるため、教育のDX化は必要不可欠とされています。
教員の長時間労働については、労働時間や給与体系など多くの問題が指摘されています。
最新の文部科学省の勤務実態調査によると、中学校教諭の1日あたり在校等時間は平均で11時間を超えており、長時間労働が常態化していることが示されています。
教育のDX化における狙い
では、なぜ教育のデジタル化が必要なのかについて詳しく説明します。
教育のDX化が必要な理由について、以下の3つの点が挙げられます。
個別最適な学びの実現
従来の教育は、教員一人に対して数十名の生徒を持つ一斉教授が一般的でした。
しかし、最新のデジタルテクノロジーを活用することで、学習内容をより豊富かつ多様なものにすることができます。
例えば、個人の学習ログなどの教育データを活用することで、個別最適な学びの実現に繋がります。
これによって、生徒一人ひとりに合わせたカリキュラムの提供が可能となります。
学校現場の業務効率化
現在、学校では教員の働き方が問題視されています。その背景として、先述の通り、常態化する長時間労働があります。
教育のDX化では、教員が繰り返し行っていた業務や、時間のかかるプロセスを自動化することができます。
これによって、教員がより本来の業務に専念できるようになり、生徒とのコミュニケーションや指導により時間を割くことができます。
デジタル田園都市国家構想の実現
日本政府は2021年、岸田内閣の下でデジタル田園都市国家構想を掲げました。
教育分野では、全国の地方自治体において、ICT環境の整備やデジタル教材の配信、eラーニングなどを推進することが目指されています。
教育のDX化により、教育が地域を超えて共有され、地域格差の解消や、生徒の学びの質の向上が図られることが期待されます。
以上のように、教育DXは、生徒の学び方や教育現場の業務効率化、全国レベルでの教育改革など、多岐にわたって期待されています。
学校における実践例
この部では、教育DXを進めている愛光中学・高等学校の事例を紹介します。
愛光中学・高等学校は1人1台iPadの整備を行い、現在は中学1年から高校1年までの4学年が1人1台体制となっています。
同校では、このiPadを使ったロイロノートを活用した授業の実践を進めており[1]、数学の授業においてはロイロノートでグラフの描画を行い、プレゼンテーションを行うことで、生徒たちの理解度を向上を目指しています。
また、英語の授業においては、ディスカッションの場をロイロノートを利用したオンライン授業に切り替えることで、参加率が向上し、より多くの生徒が発言できるようになったという実績があるそうです。
さらに、音楽の授業においても、iPadを使って録音を行い、フィードバックを受けることで、生徒たちの自己評価を高めることができたとされています。
このように、愛光中学・高等学校では数学の授業から音楽の授業まで、幅広くICT端末を使用した学習が行われているようです。こうしたデジタル端末やシステムを活用することで、生徒たちの学習環境を改善し、教師たちの業務を効率化しつつ、授業の質を向上させていることが分かります。
また、今後は生徒が活用したICT機器から得られるデータを利活用することで、さらなる教育効果の向上が見込まれます。
教育のDX化におけるメリット・デメリット
教育のDX化には様々な効果があります。一方で、新しい技術ということから、メリット・デメリットの両面が存在します。
メリット
教育内容の充実化
ICTを活用することで、従来の紙の教科書に加え、動画や音声など、インタラクティブな教材を取り入れることができます。
また、ICTを活用することで、教師が生徒の理解度に応じて個別の指導を行うことができるため、生徒一人ひとりに適した学習内容を提供することができます。
教員の業務効率化
ICTを活用することで、教員の業務を効率化することができます。
例えば、教材の作成や採点の自動化、生徒の進捗管理など、多くの業務がICTによって支援が可能です。
学校の教員が担う教務をDX化し、働き方改革を推進することも重要なメリットの一つです。
生徒の学び方の多様化
ICTを活用することで、生徒が自分自身で学び方を選ぶことができます。
例えば、動画を見たり、音声を聞いたり、ゲーム感覚で学ぶことができるため、生徒は自分に合った学び方を選択することができ、学習意欲の向上が見込まれます。
デメリット
ICT環境整備の負担
ICTを活用するためには、情報端末やネットワークの整備が必要となります。これには膨大な費用や人的リソースが必要となるため、自治体や教育機関にとっては大きな負担となります。
文部科学省による令和3年度の調査によると、小学校のICT授業比率は27.1%、中学校は51.7%にとどまっています。
背景として、ICTを活用する際の教員の技術的な課題や、インターネット回線の整備が行き届いていないことが問題点として挙げられています。
生徒の個人情報の管理
ICTを活用することで、生徒の個人情報が多く扱われるようになるため、個人情報の管理が重要となります。
情報漏えいや不正利用などのリスクもあるため、適切なセキュリティ対策が必要となります。
以上が、教育DXによる教育機関のメリットとデメリットについての説明になります。
いまだ課題点は多く残されているものの、教育の個別最適化や教員の働き方改革をなどのメリットを踏まえると、大きな期待を寄せることができます。
今後の展望
教育のDX化は、デジタル技術を活用し、より効率的で質の高い教育を提供することを目的とした取り組みです。
今後の展望については、以下のような情報があります。
デジタル庁や関連省庁は、教育データの利活用に向けたロードマップ策定に着手しており、国民からの意見募集を行っています。[参考:デジタル庁HP(教育)]
なお、教育DXの推進には、教育データの分析・利活用の推進や最適なシステムの導入、自治体等が留意すべき点の整理などが必要であるとされています。
加えて、デジタル技術を活用した教育の実践に際しては、教員のスキルや意識改革、インフラ整備など、多くの課題が存在することも指摘されています。
今後も教育DXに向けた施策が進められる中で、これらの課題を克服し、より良い教育が提供されることを期待したいですね。