近年、より豊かな人生を生きる力として学校や保育現場などでも注目されている非認知能力。これからの時代を生きていくのに必要不可欠な能力として関心が高まっています。
「幼児期の取り組みが重要」「非認知能力を鍛える!」と言ったフレーズを耳にしたことのある方も多いのではないでしょうか。
この記事では、非認知能力がどのような能力なのか、幼児期の取り組みがどうして重要と言われているのか、そして非認知能力を育成するにはどうしたらいいのか、具体例をあげながらわかりやすく解説していきます!
非認知能力ってどんな力?
非認知能力とは、認知能力とは異なる、人間の行動や判断に影響を与える能力のことを指します。
認知能力とは、例えば学習能力や記憶力、問題解決能力など、IQテストや学校のテストで数値化できる能力を指します。
これに対して非認知能力は、感情や心の内面の働き、自己管理や協調性、持続力など、数値化して測りづらい能力を指します。
文部科学省では非認知能力を以下のように説明しています。
非認知能力とは、主に意欲・意志・情動・社会性に関わる3つの要素(①自分の目標を目指して粘り強く取り組む、②そのためにやり方を調整し工夫する、③友達と同じ目標に向けて協力し合う。)からなる。
また、非認知能力の研究を行っている日本生涯学習総合研究所は、非認知能力の例として以下のような能力をあげています。
- 問題解決力 (自分で考え、問題を発見し、それを解決する力)
- 批判的思考力 (先入観にとらわれずに俯瞰的な視点から物事を考える力)
- 協働力 (他者と尊重しあい、助け合う力)
- コミュニケーション力 (他者と気持ちを伝えあって信頼関係を築く力)
- 主体性 (自分の意思・判断で責任を持って行動する力)
- 自己管理能力 (自分を律し、管理する力)
- 自己肯定感 (自分の意義や価値を肯定できる力)
- 実行力 (計画を立てて、それを遂行する力)
- 統率力 (集団を率いて、全体の目的のために行動する力)
- 創造性 (独創的で生産的な発想を生み出す力)
- 探究心 (物事をより深く掘り下げて考えようとする力)
- 共感性 (他者と感情を共有したり、他者の感情を感じ取ったりできる力)
- 道徳心 (善悪を判断し、善い行いをしようとする力)
- 倫理観 (人として守り行うべきことを判断できる力)
- 規範意識 (集団や社会のルールを守ろうとする力)
- 公共性 (集団や社会の中で自分の役割を果たす力)
- 独自性 (新しいアイディアを生み出したり、他者と違った感性を発揮したりする力)
非認知能力は、自分自身の行動や思考をコントロールする能力を中心に、他人との関わりや目標達成に向けたモチベーションの維持などを含む、人間の基本的な能力の一部を形成しています。
これらの能力は、学習や仕事、人間関係など、日常生活の様々な場面で活用され、生涯にわたり成長し続けることが可能です。
非認知能力の育成と向上は、自己成長のために非常に重要であり、自己理解や自己制御、社会性の向上など、個人の全体的な成長と成功に大きく貢献します。
どうして《幼児期》の教育が重要なの?
では、なぜ幼児期が非認知能力の育成にとって重要なのでしょうか。
その理由は、人間の脳が幼児期に最も成長するという神経科学的な事実と、幼児期が社会性や行動習慣を形成するための重要な時期であるという教育学的な視点から説明できます。
理由1 幼児期は最も学習能力が高いため
まず、神経科学的な視点から見ると、人間の脳は生後数年間で急速に発達し、その期間は学習能力が最も高まると言われています。
この期間は新たな経験に対する脳の反応性が高く、環境や経験から学び取る能力が優れています。
したがって、この時期に良好な環境を提供し、良好な行動パターンや社会的スキルを示すことで、非認知能力を育成することが可能となります。
理由2 幼児期は人間形成の重要な時期であるため
次に、教育学的な視点から見ると、幼児期は個人の行動習慣や社会性を形成するための重要な時期であり、この時期に形成された習慣やスキルは生涯を通じて影響を与えるとされています。
具体的には、自己管理能力や協調性などの非認知能力は、幼児期に家庭や保育園、幼稚園などの環境での日常的な経験を通じて学び取ることが多いです。
これらの理由から、非認知能力の育成において幼児期が非常に重要であることが理解できるでしょう。
幼児期の環境や経験が非認知能力の形成に大きな影響を与え、その能力はその後の人生において大きな役割を果たします。
したがって、非認知能力の育成は、幼児期の教育や育ちを通じて行うべき重要な課題であると言えます。
非認知能力を育てるには、どうしたらいいの?
幼児期の教育が重要とされている非認知能力の育成ですが、どのような環境が必要なのでしょうか。
ここからは、子どもの非認知能力を育てる上で、保育者が提供するべきポイントについて、5つの項目をあげて解説します。
安定した愛情と支援
子どもは信頼できる大人から安定した愛情と手助けを受けることで、自己肯定感や探究心を育てることができます。
大人が子どもの感情や行動を理解し、それを尊重することが重要です。
大人が自分を見て承認してくれている、という事実が子どもの自己肯定感を育て、またその安心感によって子どもは探究心を発揮できるようになります。
挑戦と失敗の機会の提供
非認知能力は、新たな挑戦を経験し、その結果として生じる成功や失敗を通じて育つことが多いです。
大人は子供に安全な環境で新しいことに挑戦させ、失敗からも学ぶことができるようサポートする必要があります。
ついつい助言したくなってしまう場面でも、保育者は見守る姿勢を保つことが大切です。
良好な遊び場の提供
子どもの非認知能力を育てるためには、身体的、精神的に安全で、かつ刺激的な環境が必要です。
子どもが自由に探索し、自身の興味を追求することができる環境を提供することが重要です。
子どもたちが興味を持ち、安心して自由に遊ぶことのできる遊び場が求められます。
目標設定と達成
自己管理能力や問題解決力を育てるためには、子ども自身が目標を設定し、その目標を達成する経験が重要です。
大人は見守ったり声かけを行ったりして子どもがリアルな目標を設定し、それを追求できるように支援することが求められます。
手本となる存在であること
大人が非認知能力のモデルとなり、コミュニケーション力や共感性、道徳心などを示すことで、子どもはこれらの能力を身につけることができます。
また、大人からの適切な指導とフィードバックも子どもの非認知能力の発展に寄与します。
具体的には子どもの存在を肯定的に認め尊重し、子どもの存在や言動を認めて、たくさん褒めることが大切です。
非認知能力を育てる《遊び》ってなに?
それでは具体的に、どんな遊びが「非認知能力を育てる遊び」なのでしょうか。
すぐに実践できる遊びの例と、その際に保育者が意識すべき点を5つ紹介します。
ごっこあそび
おままごとやお医者さんごっこなどの《ごっこ遊び》は、他者の立場を理解する力や共感性を育むのに有効です。
さらに、言葉や身振りを通じて他者とのコミュニケーション能力も養うことができます。また、子どもたちがごっこ遊びの中で物語を作り、想像力を使ったりすることで創造性を発展させることにもつながります。
積み木あそび
積み木やレゴを使った遊びは、子どもの創造性や問題解決力を養います。
また、計画を立てて目標を達成する経験を通じて、考えたことを推敲する実行力や諦めずに粘り強く取り組み続ける持続力も育てることができます。
さらに友達と一緒に積み木遊びをすれば、一緒に協力して一つのものを作り上げる経験になり、協働力や統率力を向上させる機会になります。
子どもは手先が大人のように器用に動かなかったり、やりたいことがうまく実行できなかったりすることも多いです。ついつい手助けしてあげたくなってしまいますが、うまくいかない経験から学ぶことも多いため、できる限り穏やかに見守る姿勢を持つことが大切です。
お絵描きや工作
お絵描きや工作などの活動は子どもが自己表現を学び、自己肯定感を育てるのに有効です。
また、自分のアイデアを形にすることで、創造性と問題解決力を発展させることができます。
身の回りにあるものをよく観察して絵に描いたり、特徴をつかんで工作に活用したりすることは、探究心を育むことにも繋がります。
子どもたちが自由に安全に使える道具や様々な材料を用意すると活動の幅が広がります。また、子どもたちが大人の感覚と違う着色や造形をしたとしてもそれを肯定的に捉えて、子どもの豊かな発想を尊重しましょう。
自然とのふれあい
自然と触れ合う活動、例えば公園での遊びやキャンプは、探究心や主体性を育てるのに役立ちます。
また、自然環境で適応し、みんなで砂の山を作ったり、テントを立てたりする、集団で一つの物事を達成する経験は子どもの公共性を発展させることに繋がります。
ボードゲームやカードゲーム
ボードゲームやカードゲームは、ルールを理解し、ルールを守りながら遊ぶ規範性を実践する機会を提供します。
また、勝ち負けを経験することで、失敗と成功を受け入れる能力も育てることができます。
集中力を高めると同時に、論理的思考力を養うことも期待できます。
子どもが楽しんで実行できる範囲のルール設定や、遊び方の伝え方を意識する必要があります。また、子どもたちの遊びが発展し、本来のルールと異なる遊び方や使い方をはじめた場合でも、見守り、危険が伴わない範囲で自由に遊ばせることで主体性や独創性を育むきっかけになる可能性があります。
まとめ
幼児期の非認知能力育成は、子どもたちが生涯にわたって学び、成長し、成功するための基盤を形成します。
保育・教育者、親をはじめ、子どもを取り囲むコミュニティ全体が協力して非認知能力の育成に取り組むことで、子どもたちは自分自身を理解し、他人と良好な関係を築き、自分の行動を管理し、問題を解決する能力を育てることができます。
子どもの非認知能力を育むためには、特別な道具や遊びは必要ありません。最も重要なことは、保育者が子どもを承認し、愛情を示すことです。子どもは安心して遊ぶことができる環境で、主体的に遊ぶことで、非認知能力を獲得していくのです。
参考資料
・全附連『幼児教育における非認知的な能力の意義』
・文部科学省(中央教育審議会 初等中等教育分科会 幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会)―第2回会議までの主な意見等の整理―